はじめに|英語教育とAIの“意外な相性”

英語教育の現場では、「子どもが英語を話す機会が足りない」「スピーキングに自信がない」という課題がずっと続いています。 そんな中、ChatGPTに代表される生成AIの対話機能が注目されています。

「英語で会話ができるAI」という存在は、従来の「書く・読む」中心の学習スタイルに、“話す練習”を日常化できる可能性をもたらしています。

この記事では、実際の教育現場での研究や実践例をもとに、AI英語教育のメリット・課題、そして今すぐ試せる活用ヒントを紹介していきます。

第1章|AIは“英語を話す相手”になれるのか?

「英語は読むのはできる。でも話すのは苦手。」 多くの中高生が感じているこの壁に対して、AIは新しいアプローチを提案しています。中でも注目されているのが、ChatGPTなどの生成AIと“英語で会話する”という活用法です。

研究が示す効果:話す機会と安心感の増加

鳴門教育大学の寺田(2023)は、ChatGPTのような生成AIを英会話の相手として使うことで、次のように報告しています。

生成AIを英会話の相手として活用することで、学習者が気軽に発話練習の機会を得られる環境づくりが可能となる。AIとの対話は不安感の軽減や話す機会の増加につながり、英語運用力の向上に寄与することが示唆された。 (寺田和弘, 2023, 『外国語科教育における生成AIの利活用』, 鳴門教育大学研究紀要)

この「気軽に話せる」「失敗しても安心」という点こそが、AIの最大の利点です。人間の先生や友達と話すのは緊張する。でも、AIなら間違えても笑われない。“発話量を増やす”ための心理的ハードルを下げるには、うってつけの存在なのです。

ChatGPT音声モードの強み:対話が“続く”

従来の英語学習アプリや音声アシスタント(SiriやGoogleアシスタントなど)は、「質問に答える」には強いけれど、「会話を続ける」ことには弱点がありました。

一方でChatGPTは、文脈を維持しながら会話を展開できるため、まさに“相手”として成立するのが特徴です。

まさに「英語で話したくなる相手」として、子どもにとっては非常にハードルの低いパートナーになります。

“毎日ちょっと話す”という新しい選択肢

これまで、英語を話す練習は「塾で会話レッスン」「ALTとの短時間の対話」など、限られた機会の中で行う特別な時間でした。

しかし、ChatGPT音声モードのような生成AIの登場により、

といった形で、“話す”ことが日常の一部に入り込むチャンスが生まれています。

これは、スピーキング力の底上げだけでなく、英語への心理的な距離感そのものを変える動きとして注目すべきポイントです。

第2章|教育現場で進むAI活用のリアル

英語教育の現場では、AIを活用した授業づくりが少しずつ進んでいます。ここでは大学・中等教育での代表的な実践事例を2つ紹介します。

大学での導入事例:プロジェクト型授業とAI翻訳

立命館大学では、学生が英語で発表・議論するプロジェクト型学習に、AI翻訳サービス(Mirai Translator等)を導入。 木村修平(2023)は、以下のように報告しています。

AI翻訳の活用によって発話への心理的ハードルが下がり、学習者の自律性や会話の頻度が向上した。
(木村修平, 2023, 『AI時代の英語教育を考える』, J-Stage)

つまり、AIは単なる翻訳補助ではなく、「話してみよう」という行動の後押しとして機能したわけです。

中高での導入事例:生成AIとモチベーションの関係

大阪女学院大学の中井美和(2023)は、ChatGPTなどの生成AIを中高の授業で活用する事例を紹介しています。

作文の補助、会話練習、即時フィードバックなどに活用され、次のような効果と課題が示されました。

「やらされる学び」から「やってみたい学び」へ変化する一方で、AIをどう扱うかの“教える力”がより求められていることも明らかになっています。

第3章|ChatGPTが“教材そのもの”になる時代へ

AIが教材をつくる時代が始まっている

関西大学外国語学部(2023)は、ChatGPTを用いた教材開発の実践を報告しています。

写真やイラストを見せて、「これについて英作文を考えて」と指示すると── AIは子どものレベルに合わせた例文、対話の展開案、語彙バリエーションを瞬時に提示。

これは、従来の「教師が問題を用意し、児童が答える」という流れを逆転させ、AIが生成する素材を教師がどう使うか、という時代への入り口です。

教師・保護者が“設計者”になる時代へ

AIが「英語でのやり取り」や「教材の素」を提供してくれるようになった今、 教員や保護者に求められる役割は変わりつつあります。

それは、教えることではなく、「どう学ぶかを選べる環境」を設計すること。

たとえば──

こうした学びの設計にこそ、今の教育者や大人の力が生かされるのです。